日本語教師を目指す皆さんが、まず思い浮かべる疑問は、「どうやって日本語を教えたらいいの?」ということだと思います。
日本語教育の世界では、外国人に日本語を教えるための日本語教育文法というものが存在します。
日本語教育文法は、日本人が学校で習う国語文法とはちょっと違うんですね。
日本語初心者でも、どの国の出身者でも、とにかくわかりやすいように作られたものが日本語教育文法なんです!
この記事では、具体例を挙げて、わかりやすく説明していきますね。
日本語教師になりたい人が学ぶべき日本語教育文法とは?
皆さんにとって馴染み深い国語文法は、専門用語(しかも漢字)が多用されていて、日本語初心者にとってわかりにくいですし、実は、日本語教師にとっても教えにくいんです。
日本語教育のための文法は、外国人への日本語教育がまだ盛んでなかった1960年代に、当時の大阪外国語大学で教鞭を執っていた寺村秀夫先生によって開発されました。
その後も1980年代から1990年代にかけて日本語学の研究成果を取り入れて、大きく発展していきました。
ほんの一例を挙げると、皆さんも形容動詞という用語を聞いたことがあると思いますが、これは日本語特有の品詞で、英語をはじめとするその他の言語には、形容動詞というものはないんです!
国語文法では、「優しい」などの単語を形容詞、「親切だ」のような単語を形容動詞として扱うのが通例ですが、これは活用に着目して区別しているだけで、意味的にはどちらも形容詞なんですね。
英語では、「優しい」も「親切だ」も「kind」で表現されますよね。
日本語初心者の外国人に
なんて説明すると、
って大混乱されること間違いなしです(笑)
そこで、日本語教育の現場では、日本語初心者にもわかりやすいように、いわゆる形容詞は「イ形容詞」、形容動詞は「ナ形容詞」として教えます。
これについては、次の章で詳しく説明していきますね。
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外国人にわかりやすく教えるコツ
前章では、外国人に日本語を教える時は、日本人向けの国語文法ではなく、日本語教育文法を用いるということが、おわかりいただけたと思います。
日本語学習者にとってわかりやすくて、日本語教師にとっても教えやすい日本語教育文法とは、どのようなものなのか気になりますよね~!
それでは、早速、具体例を見ていきましょう。
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イ形容詞とナ形容詞!?
日本語教育文法では、日本語の形容詞を活用の仕方によって、「イ形容詞」と「ナ形容詞」の二種類に分類します。
大きい 小さい 家
高い 低い 山
長い 短い 鉛筆
明るい 暗い 部屋
新しい 古い 着物
親切な 不親切な 店員
安全な 危険な 場所
得意な 苦手な 科目
必要な 不必要な もの
好きな 嫌いな 食べ物
上記の例を見ていただくと、一目瞭然ですね!
名詞を修飾する形にすると、イ形容詞の活用語尾は「い」、ナ形容詞の活用語尾は「な」になります。
「イ形容詞」と「ナ形容詞」は、このシンプルな性質を表したネーミングなんですね。
このように具体例を見せると、日本語初心者にとってもわかりやすいですし、教える時もスムーズに教えられますよね。
わざわざ「形容動詞」という、その他の言語にはない品詞を説明する必要はないんです。
このように、日本語教育文法は、シンプルかつわかりやすいネーミングが特徴です。
因みに、「きれい」はイ形容詞と間違えられやすいですが、名詞を修飾する形にすると「きれいな人」となるので、ナ形容詞です。
ル形とタ形!?
では、次の例を見てみましょう。
(1)冷蔵庫の中にケーキがある。(現在)
(2)冷蔵庫の中にケーキがあった。(過去)
(1)は現在の状態を、(2)は過去の状態を表しています。
皆さんは、「ある」は現在形、「あった」は過去形と習ったでしょうか。
しかし、以下の例はどうでしょうか?
(3)これからごはんを食べる。(未来)
(4)もうごはんを食べた。(完了)
(3)は「食べる」という形で未来の動作を表し、(4)は「食べた」という形で既に完了した動作を表しています。
このように、現在形と過去形というネーミングでは(3)と(4)の用法を網羅できないので、「ル形」と「タ形」という見てそのままのシンプルな用語を使います。
さらに、次のような用法もあります。
(5)このカフェでよくケーキを食べる。(習慣)
(6)名前、何だったっけ?(想起)
(7)あの時、もっと注意しておくべきだった。(後悔)
(3)で見たように、通常、「食べる」のような動作動詞のル形は未来を表しますが、(5)のように、「よく」などの副詞と共起すると、ル形で習慣を表すこともあります。
(6)は、以前に名前を聞いたことがあったけど忘れてしまったときに、再度質問する際に使われるタ形で、想起と呼ばれる用法です。
(7)は、実際はしていないことをするべきだったと後悔するときに使われるタ形です。
以上のように、ル形とタ形には単に現在と過去以外の用法があることが、おわかりいただけたと思います。
日本語では一つの形式に複数の用法が存在する場合が多いので、日本語教育文法では用法ではなく、形式に基づいたネーミングが採用されているんですね。
日本語の初級の授業では、「ます/ました」の丁寧体で先に導入されることが多いです。また、ル形は「辞書形」とも呼ばれます。
まとめ
この記事では、外国人に日本語をわかりやすく教えるために作られた日本語教育文法について解説しました。
日本語教育文法は、日本語学の研究成果に基づいて、ここに挙げた例以外の文法項目についても体系的にまとめられています。
現在、日本語教育の現場で使用されている初級のほとんどの教科書は、この日本語教育文法を基に作られています。
一つの形式に複数の用法が存在する場合、実生活で使用頻度の高くない用法(c.f.(6)(7)の例)は、初級学習者を混乱させないためにも、中級以降に導入するのが望ましいでしょう。
日本語教師を目指す皆さんが、日本語教育文法を熟知することで、個々の学習者のレベルやニーズに合わせて、教える項目に優先順位を付けたり、取捨選択したりできるようになることが理想です。
日本語をわかりやすく教えるためには、まずは日本語について詳しく知ることが何より大切ですね!
野田尚史(2005)『コミュニケーションのための日本語教育文法』
庵功雄(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』